酒杯談義 2
書生は悠長に歩いてきて、深々と礼をした。「私は祖千秋(そせんしゅう)と申すもので、祖は祖先の祖で、千秋とは千秋万歳の意味だ。貴公のご尊名は?」「私は令弧冲と申す」「いい苗字だ、名前もいい!」 祖千秋は言いながら、渡り板から舳先に上がった。
ニヤリとした令弧冲、(酒をふるまってやるんだから、何でも良くなるわけだ)すぐさま碗に酒をつぎ、祖千秋に手渡した。「どうぞ!」
見ると、祖千秋は五十年輩である。顔は黄色くひからび、酒焼けした赤鼻に、どんよりとした両眼、髭が数本申しわけ程度に生えている。襟元は脂でテカテカしており、両手の爪先は泥で真っ黒だ。痩せているくせに、太鼓腹を突き出している。
令弧冲の差しだした碗を、祖千秋はすぐに受け取ろうとしない。「令弧どのはいい酒はお持ちだが、いい器がない。残念なことだ」「旅の途中ゆえ、粗末な器しか持ち合わせていない。我慢して呑んでいただけまいか」
