酒杯談義 3
祖千秋は首を振った。「それは断じていかん。酒器を疎かにするとは、酒の道の要諦を心得ておらぬな。酒を呑むときには、何の酒にはどういう器を使うか気を配るべし。汾酒を呑むときには玉杯を用いるべきだ。唐詩にいわく『玉椀盛り来たる琥珀の光』。玉碗や玉杯は、酒の色をよく見せるということだ」
「おっしゃる通り」
祖千秋はある酒がめを指差さした。「この関外(山海関より東の地域)の白酒(バイチュウ・蒸留酒)は味がよいが、惜しむらくは芳香が欠けておる。犀(さい)の角でつくった杯で呑めば、芳醇この上ないが。玉杯が酒の色をよく見せ、犀角杯が酒の香をよくする。古の人は嘘はつかんよ」
令弧冲は、洛陽で緑竹翁の講釈を聞いてから、天下の美酒の由来や特徴、醸造法、貯蔵法についてなら、すでに十中八九は知っていたが、酒器に対してはまったく知識がなかった。今、祖千秋の滔々樽たる薀蓄を聞いて、眼からうろこが落ちる思いである。
