酒杯談義 5
祖千秋は別の酒がめを指さした。「この高粱(コウリャン)の美酒は最古の酒だ。夏(か)の禹(う)皇帝の時代に、儀狄(ぎてき)が最初に酒を造り、禹が呑んだのが高粱酒だ。令狐どの、世人(せじん)は大禹(たいう)が後世にに残した福と言えば、治水(ちすい)にしか着目せぬが、大禹の真の功績を知っているかね」
「酒を造ったこと!」
「高粱酒を呑むには、青銅の爵(しゃく・三本足の酒器)を使ってこそ、歴史の重みがある。米酒はどうかと言えば、上質の米酒は味はよいが、淡白で旨味に欠ける。それを大きな升で呑めば、気概が感じられる」
「俗人の私には、酒と酒器にこれほど多くの謂われがあるとは」
