酒杯談義 6

 「百草美酒」と書いてあるかめを叩きながら、祖千秋はさらに語った。

 「この百草美酒は百草を採集し、美酒に浸したものだ。だから酒は清々しい香がする。百草酒は、百年物の古い藤で彫った杯を使って呑めば、その芳醇な香がいっそう引き立つ」。

 「百年ものの藤とは、なかなか手に入らないな」

 祖千秋は真顔になった。 「それは違う。百年の美酒は百年の藤よりいっそう手に入りにくいものだ。考えてもごらん、百年の藤は深山(みやま)へ行けば見つかるが、百年の美酒は誰もが口にしたいし、呑んでしまえばなくなってしまう。古藤杯(ことうはい)の方は、一千回一万回呑んだところで消えたりはしない」

 「ごもっとも。何も知らぬ私に、どうかご教示ください」

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